©田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー ©加藤直之
みなさん、こんにちは。
前回は『銀河英雄伝説』の主人公格にあたる、ヤンとラインハルトについて紹介させて頂きました。
今回は、総勢600名に及ぶ登場人物の中で、ラインハルトに仕えた将帥達からご紹介していきます。
順番は、好みですのでご容赦下さい。
ジークフリード・キルヒアイス
作中屈指の好人物にして高能力者
ラインハルトの唯一の友にして、多くの可能性を未来に持ちながら早世した、作中屈指の人気キャラクターです。
残念ながら第二巻という初期の段階でこの世を去りましたが、死去後の登場人物達がこぞって『キルヒアイスさえ生きていれば!!』と嘆くほどその死を痛まれました。
原作者でさえも『殺すのが早すぎた』と後悔し、後の外伝では、ほぼ主役の話が作られる程です。
物語当初は『金髪の小僧の忠臣』『惑星の周りを回る衛星』などと、ラインハルトの付属物、という扱い受けます。
が、射撃、格闘術においても高い技能を示し、艦隊運用を任せれば周囲の予想を遥かに上回る速度で戦績を上げる、人呼んで『チート将帥』『完璧超人』です。
おそらく作中屈指の美貌を誇る姉君のハートを射止めたのも、この忠義に厚い赤毛の青年であることが、明確ではないにしろ匂わされています。
後に帝国将帥を次々と撃破した『不敗の魔術師』でさえ、アムリッツアで対峙した際には『これでは付け入る隙がない』とぼやいて、撤退を余儀なくされた程の用兵巧者でした。
ラインハルトの半身にして鋭気を受け止める鞘の役割を果たす
また人柄においても、激情に駆られて武断に走り易いラインハルトに唯一諫言が出来る人物にして、姉に代わってラインハルトの鋭気を包み込む鞘のような役割を果たしていました。
キルヒアイスを失って以降のラインハルトは、無二の理解者を失って孤独な陰影を深める事になり、一人佇んでは亡き友に話しかける、というシーンが増えていきます。
なによりも作中で度々語られる事ですが、取って代わる事が出来ない天才ラインハルトの、唯一の代役を務められる、文字通り『分身』とも言える貴重な人材でも。
彼が生きていれば、ラインハルトはバーミリオンで敗戦寸前に追い込まれる事もなく、後の同盟統治においてもヤンや同盟政府を威圧する態度も取らず、ロイエンタールの反乱も招くことはなかった事でしょう。
2019年公開予定の劇場版での活躍に期待
2019年に公開予定の新作劇場アニメでは、彼の死が語られるリプシッタット戦役が描かれるかと思います。
死去後40年に渡って
キルヒアイスさえ生きていれば!!
と読者を嘆かせる、極めて稀有なキャラクターです。
ちなみにアニメ旧OVA版では、柔らかな微笑を常に絶やさない、穏やかなキャラクターとして描かれています。
しかし2018年度版では、よりラインハルトの忠臣、という寡黙な武人としての描写が強調されています。
ウォルフガング・ミッターマイヤー
快速戦術を得意とする『疾風ウォルフ』
ラインハルト麾下の将帥としては、キルヒアイスに次いで古参にあたり、ロイエンタールと並んで『帝国の双璧』と謳われた知勇兼備の勇将です。
ローエングラム王朝成立後は、宇宙艦隊司令官の重責を全うし、政務畑は未経験ながら国事を司る国務尚書に推薦されるなど、周囲からの厚い信頼を受けています。
高速機動戦術を得意とし、敵艦隊を追撃中に速過ぎて敵艦隊を追い越してしまった、という逸話の持ち主であり、『疾風ウォルフ』と呼ばれています。
ロイエンタールとは無二の親友であり、作中も常に行動を共にし、酒を飲んでは現状を話し合ったり喧嘩をしたりしています。
ラインハルトが帝国の権力を奪取する契機となるリプシッタット戦役では、蛮勇で鳴るオフレッサー上級大将をロイエンタールと共に生け捕りにし、艦隊運用だけでなく白兵戦でも強さを発揮しました。
作中でもっともバランスが取れた性格の持ち主
性格は剛勇と度量の深さ、情の深さを併せ持つ人柄であり、己の能力を鼻にかけず、謙虚な姿勢の持ち主です。だからこそ、一癖も二癖もある僚友ロイエンタールと親友でいられたのでしょう。
唯一の犬猿の仲は、軍務尚書オーベルシュタイン(笑)ですが、正しいと思えばオーベルシュタインの言も受け入れる、度量の広さを持ち合わせています。
無二の親友であるロイエンタールが反旗を翻した時には、ラインハルトに代わって親友を撃ち、親友の死に涙する姿が人々の心に深く焼きつきました。
ちなみに極度の愛妻家で、家庭的に欠落した環境が多い登場人物の中で、理想の夫婦とも言うべき円満な夫婦生活を送っている人です。
戦争と政治という重厚なテーマが主軸の本作において、明るく快活で、疾風となって戦場を駆け抜けるミッターマイヤーは、ラインハルト陣営の中でも陽の部分を担うキャラクターでもあります。
オスカー・フォン・ロイエンタール
帝国の双璧と謳われた知勇のバランスの整った名将
ミッターマイヤーと並ぶ『帝国の双璧』として、ラインハルトの創業を初期から支えた名将です。
ラインハルトやヤンに比肩する能力の持ち主であり、ラインハルトは勇、ヤンは知に傾いている中で、知勇の均衡が取れたバランス型の将帥です。
戦略ゲームのパラメータに例えれば、各能力の最高値は他キャラクターに譲るものの、全能力の合計値はもっとも高い、というタイプではないでしょうか?
ミッターマイヤーと同様に剛勇な精神の持ち主ですが、戦略的撤退を的確に判断出来る将官として描かれており、敵方のヤンをして名将の鑑と評されるのです。
また、ローエングラム王朝成立後は、統帥本部長としてミッタマイヤーと共に帝国軍の重責を担う立場へと変化しましたが、その任に堪えうるだけの功績を示してきました。
どこか破滅的な思考を隠し持つ稀代の梟雄
しかしきらびやかな将才とは裏腹に私生活は退廃を極め、作中屈指の美男子ですが、女性をとっかえひっかえする漁色家としての令名を馳せています。
これは彼の出生にまつわる悲劇が、女性不信の種と破滅的な思考を植え込んだと語られています。
が、知勇兼備のバランス型と評される一方、能力に等しい野心を抱えた油断のならない梟雄としても周囲に認知されており、周囲の目から自身の野望と破滅的思考を内に隠して、ラインハルトの創業を支えてきました。
結果として、物語最終面においてラインハルトとの関係は破綻し、最後は自身の敬愛して止まぬ主君に反旗を翻します。
残念ながらその想いは主君に届くことはなく、自らが無二の友と認める盟友ミッターマイヤーの手によって討たれます。
恐らく時代を変革する力量を有しながら、叛逆者として歴史に名を残す事になった稀代の梟雄にとって、自身の生涯とはいかなるものであったのか。
本伝に、それを指し示す記述は残されていません。
パウル・フォン・オーベルシュタイン
帝国印 絶対零度の剃刀
人呼んで『絶対零度の剃刀』、『ドライアイスの剣』。冷徹を持って鳴る、泣く子も黙る義眼の軍務尚書です。
生まれつきコンピューター製の義眼がなければ視覚を得る事が出来ず、自らを劣悪と決め付けるルドルフの思想に反発し、現帝国の打倒を志しました。
ラインハルトは彼を得ることによって、覇業の階段を一足飛びで駆け上がる事が出来ましたが、代わりに彼の献策によって自らの半身ともいえる、キルヒアイスを永遠に失うことになります。
そして、彼の献策はどれもマキャベリズムの極地であり、ラインハルト陣営の政戦両略も王道から外れ、より覇道色を強めていきます。ローエングラム王朝が毀誉褒貶の激しい評価を後世より受ける事になったのも、彼の献策が影響を及ぼしています。
敵対する門閥貴族の大量虐殺を黙認する、イゼルローン軍に無血開城を迫るために無辜の市民に拘束を加えるなど、目的のためなら手段を選びません。
というか、最悪だが最も効果的な手段をあえて選びます。
彼の献策や行動は、結果として帝国内部の軋轢を産み、ロイエンタール反乱時には『君側の奸』と評されました。
しかし、なぜ万人に疎まれながらも重用され失脚しないかと言えば、誰が見ても彼自身の行動に一片の私利私欲がなく、その思考においては誰もが反論できない正論を持って他者の掣肘を許さないためです。
ローエングラム王朝の影の部分を一身に背負い、ラインハルトさえ自らの覇業のための道具と割り切って、自らの使命を淡々と果たしていきました。
最後はテロリストの凶弾に倒れる
ラインハルトの逝去が近づくにつれ、自らの役割も終わったと考えたのでしょう。
最後は自身を囮として、皇帝の命を狙うテロリストをおびき寄せ、テロリストの放った凶弾によって落命します。
オーベルシュタインを用いず、キルヒアイスが存命した場合の歴史のイフについて、本作は触れる事はありませんでした。ひょっとしたらオーベルシュタインを用いなければ、ラインハルトとローエングラム王朝の名は、より明度の高い光彩を帯びたものになったのかもしれません。
が、本作が単なる英雄礼賛の物語で終わらない異質な輝きを帯びたのは、軍務尚書の義眼から放たれる冷徹な光であった事は間違いないでしょう。
ヒルデガルド・フォン・マーリンルドルフ
本作では数少ない女性キャラにして、作中でラインハルトと結ばれるヒロインでもあります。
大貴族の家に生まれながら『頭の中がケーキのクリームで出来ている』普通の令嬢とは一線を画し、勉学に勤しみ乗馬で野山を駆け巡るなど活動的な女性です。
ラインハルトの才幹と野望を早くから見抜いており、反ラインハルトで結束する旧来の門閥貴族とは袂を分かち、ラインハルトと共にいく道を選びました。
ラインハルトの危地を救った『一個艦隊に勝る』智謀
父であるマーリンルドルフ伯からは『お前が男に生まれていれば』という嘆きと共に自家の将来を託され、稀代の英雄ラインハルトからも『頭脳は一個艦隊に勝る』と、その聡明さを称えられます。
その評価に違わず、ラインハルト生涯最大の敗戦とも言うべきバーミリオン会戦においては、ロイエンタール、ミッターマイヤー両提督に献策を行い、同盟の首都ハイネセンを強襲させ、ラインハルトの危地を救いました。
参謀から国母へ
聡明さと女性らしい心配りを持って、ラインハルトの創業を支えていましたが、ラインハルトの心の支えとなるべく、一夜を共にします。
その後、ローエングラム王朝の次期皇帝を身篭る国母となりますが、ラインハルトの逝去と実子の生誕を持って、物語は終わりを迎えます。
物語の始まり、動乱の端緒は奪われたアンネローゼの奪還から全てが始まった訳ですが、物語の最後はラインハルトが伴侶を得て、実子をもうける事によって動乱の歴史に終幕の鐘が鳴ります。
策謀と砲弾が飛び交い、幾万の流血を飲み干した銀河の歴史にとって、最後を占めるに相応しい女性です。
最後に
銀河帝国内における将帥列伝を執筆しましたが、いかがだったでしょうか?
本当は『獅子の泉の七元帥』まで取り上げる予定でしたが、あれもこれもと書いているうちに予定の文量を大幅に超えてしまいました。
登場人物の詳細が、まるで実在の人物のように克明に描かれているのも、本作の魅力の1つですね。
また、帝国軍の中編、後編と同盟篇を書いていきますので、よろしくお願します。
それでは、最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
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