©田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー
架空の銀河系の動乱の歴史を描いたスペースオペラ、『銀河英雄伝説』の登場人物紹介です。
覇王ラインハルトの下に集う、将帥たちの紹介を
前編
中編
に渡って執筆しましたが、いよいよ最終編です。
ラインハルトの覇業に貢献しながら、その途上で戦場の露と消えた提督たちの事跡をご紹介していきます。
カール・グスタフ・ケンプ
銀河英雄伝説本伝 『失われたもの』より
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元は、戦闘艇『ワリキューレ』のエースパイロットとして勇名を残し、艦長を経て艦隊指揮官へと栄達を遂げ、ラインハルト陣営に加わりました。
堂々たる偉丈夫だが、同僚との出世争いには執着する
軍人らしい堂々とした偉丈夫で、その容姿は花崗岩の趣があると言われています。
妻と二人の子供を持つ円満な家庭生活を送っていますが、同僚に対する競争意識がとても高く、ミッターマイヤー、ロイエンタールの後塵を拝する事に不満を抱いていました。
オーベルシュタインの差し金でイゼルローン攻略司令官に抜擢
同じく両名の武勲が他の提督より上回る事を嫌った『ナンバー2不要論』者のオーベルシュタインの推挙によって、イゼルローン要塞にワープ航法を持って要塞を送り込む『イゼルローン攻略戦』の総司令官に抜擢されました。
折り悪く、イゼルローン側は総司令官ヤンを欠いての応戦であり、ケンプの指揮に散々苦しめられます。
しかし、ケンプ自身も用兵に柔軟さを欠き、イゼルローン陥落の決定打を見出す事が出来ず、戦線はこう着状態に陥ってしましました。
ついにラインハルトはケンプの限界を悟り、双璧両名による援軍を決意。
しかし、その間に艦隊戦で大敗を喫してしまい、功を焦ったケンプは要塞ごとイゼルローンへ突入を試みますが、舞い戻ってきたヤンによってその企図を挫かれ、最後はガイエスブルグ要塞と命運を共にしました。
能力は一級品だが思考に柔軟性を欠く
元々、イゼルローン攻略戦そのものが帝国側内部でも『無名の戦』と批判が多く、その上、オーベルシュタインの推挙は組織のバランスから出た物であって、適材適所とは言いがたい物でした。
結果として、副指令のミュラーとは意見の相違から連携を欠き、ヤンの来援を察知して迎撃の態勢を整えるも、その企図をユリアンに察知され、艦隊は大敗。
最後はラインハルトにも能力を見限られ、ヤンからは『決断が遅すぎた』と自爆を阻止される、という形でガイエスブルグ要塞と命運を共にします。
銀河英雄伝説本伝 『帰還』より
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最後は武人としての清廉さを取り戻し、仲たがいしかけたミュラーに侘びを入れており、能力に見合わない責務を負わせると破綻する、ラインハルトの人事の失敗を体現した一人、であると言えます。
ヘルムート・レンネンカンプ
銀河英雄伝説 本伝第二期 『ヤン提督の箱舟隊』より
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誰が呼んだか、通称は『ミスター・レンネン』です。
貧相だが堅物そうな容姿に、容姿に似合わぬ立派なカイゼル髭が特徴という、いかにも『帝国軍人』という容貌をしています。
公明正大さでラインハルトに評価される
ラインハルトが軍に出仕して間もない頃の上官であり、何かと差別や迫害をされがちな彼とキルヒアイスを公平に扱った事で、陣営に招かれました。
公明正大にして部下の信頼も厚く、キルイアイスも『上司としては最上の部類』と評価しています。
同盟領の統治を失敗し、自裁をはかる
これほど、人格面では評価されている人ですが、同盟攻略後に高等弁務官の地位についた事で評価が一変します。
バーミリオン会戦前にヤンに敗れた事を根に持っており、退役後のヤンの生活を執拗に監視します。
また、同盟政府に対しても威圧的な態度をとっており、結果としてレベロ議長に売られて、ヤン一党に捕縛される憂き目にあってしまいます。
最後は、虜囚の身で自らの不明を嘆いて、ヤン一党に監禁されている最中に、首を括ってしまいました。
帝国再侵攻の名分と散る
ヤン一党に対する執拗な圧迫は、オーベルシュタインの示唆が影響を及ぼしているシーンが描かれています。結果として、ラインハルトに同盟領再侵攻による完全併呑を決意させるため、オーベルシュタインに踊らされ、命を縮める事になりました。
しかしヤンに敗北を喫したことがしこりとして残っている部分も多々見受けられ、オーベルシュタインに利用された、とも言えなくもありません。
前項のイゼルローン要塞戦で苦渋をなめたミュラーは、ヤンへの復讐を誓いながら、最後はヤンに対する敬意を持って接しています。
後に反乱を起こすロイエンタールもしかり、猜疑心がわが身を滅ぼす最たる例なのかもしれません。
コルネリアス・ルッツ
銀河英雄伝説 本伝第4期 ウルヴァシー事件より
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ラインハルトが元帥府を開設した際に、艦隊司令官として陣営に加わりました。
副将のしての登場が多い艦隊司令官
艦隊戦で描かれるシーンは比較的多いですが、門閥貴族との内戦であるリップシュタット戦役ではキルヒアイスの副指令、同盟侵攻のラグナロック作戦ではロイエンタール指揮下の副指令、と別働隊を指揮する副将的立場での登場が多い人です。
用兵は堅実かつ正統派 しかしヤンの詭計によってイゼルローンを失陥
同世代でも屈指の用兵家であるヤン、メルカッツ、ロイエンタールから堅実で隙のない用兵を高く評価されています。
しかし、ヤンがラグナロック作戦の際に残した『置き土産』を利用され、ヤン一党が放棄後は、イゼルローン要塞を防衛の任を果たせず失陥してしまいました。
ロイエンタールでさえ恐れたヤンの詭計にまんまと嵌ってしまったのは、やむを得ない事ですが、失陥の責任を問われ後方へ左遷されました。
ラインハルトの危険を察知し自ら盾となる
どちらかというと帝国軍では双璧やビッテンフェルトなど次ぐ二番手的な役割に甘んじていたルッツですが、左遷以降は真価を発揮します。
その後おきた地球教徒の爆弾テロにより負傷するも、その際に軍務尚書の子飼いであるラングの動きに不信を感じ、憲兵総監ケスラーへラングの調査を依頼します。
また、ロイエンタール謀反の噂が立った時には、あえて無防備でロイエンタールの元へ赴こうとするラインハルトへ『妹夫婦の顔が見たい』と随行を申し出ました。
結果としてルッツの危惧は全て現実の物となり、ロイエンタールの元へ赴く途中で、ラインハルトはロイエンタールの手の者を装った地球教徒に襲撃を受けます。
地上車で行幸中に襲われたラインハルトを、旗艦ブリュンヒルドで逃すために奮戦し、最後はラインハルトを逃して自身が殿を買って出て、地球教徒の凶弾に倒れました。
マインカイザー
貴方の御手から元帥杖を頂くお約束でしたが、叶わぬ事のようです
銀河英雄伝説 本伝第4期 ウルヴァシー事件より
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『生きて元帥杖を貰うのが望み』と言いながら、生還する事のなかったルッツに対し、ラインハルトは『約束を守らなかった罰だ』と言って元帥への昇進を決めました。
死してなお忠義を尽くした武人
ロイエンタールは、ラインハルトの襲撃危機に対して、可能な限りの手を尽くしましたが、ルッツの死亡を聞き、自らの釈明の余地がない事を知り、反乱に至りました。
しかし、反乱にあたって地球教徒と通じていたラングをケスラーが逮捕し、ラングの謀略を暴いたのはルッツの示唆である事がラインハルトへ報告されます。
死してなお主君に忠義を尽くすルッツに、帝国陣営の多くが涙しました。
アーダベルト・フォン・ファーレンハイト
一時はラインハルトに弓引く立場でありながら、陣営に帰参後は幾多の戦いで勇名を馳せ、物語終盤で美しく散った勇将です。
銀河英雄伝説本伝 『回廊の闘い(前編)~常勝と不敗と』より
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物語序盤から登場する有能な提督
元々、初登場は第一巻の『アスターテの戦い』で、早い段階での登場です。
ラインハルトの立てた各個撃破戦術に、年長の提督が不平を並べる中、最年長のメルカッツと共に好意的な態度を取り、命に従って功績を挙げました。
しかしその後勃発した、門閥貴族連合との戦いである『リップシタット戦役』では、門閥貴族側の有力提督として再登場します。
残念ながら階級を重んじる貴族連合内で、自身の献策は受け入れられる事もなく、貴族連合は自滅に近い形で崩壊しました。
戦役終結後に、捕虜としてランハルトトと引見し、能力の高さ故に許されて旗下に入り重用されました。
初登場が第一巻の第一章ながら、ラインハルト陣営に身を投じたのが、最後発に近いという提督です。
速攻を得意とした百戦錬磨の勇将
『食うために軍人になった』と公言してはばかりませんが、ラインハルト同様の下級貴族の出から自らの能力によって高位への昇進を果たしており、その能力の高さが伺えます。
戦術としては機動力を用いた速攻を得意とし、ビッテンフェルトと並ぶ攻撃力を誇る勇将として評価されています。
またラインハルトの戦術、戦略を良く理解し、ビッテンフェルト同様の決戦兵力としてだけでなく、遊軍兵力として敵の側背や後背を突くなど、戦場において高い戦略眼を有していた事が伺えます。
共に轡を並べたメルカッツに想いを馳せながら闘死
イゼルローン要塞に立て篭もるヤン一党を倒滅するべく起きた『回廊の戦い』において、猛進したビッテンフェルトを援護するべく、回廊内へと突入しました。
しかし、回廊内で待ち構えていたヤン相手に勇戦するも集中砲火を浴び、かつては貴族連合の同士として戦ったメルカッツ分艦隊の攻撃を受けて壊滅的打撃を蒙ります。
よろしい 本懐である
銀河英雄伝説本伝 『回廊の闘い(前編)~常勝と不敗と』より
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最後は脱出する僚艦を援護するために奮戦しましたが、自身の乗艦は撃沈され、戦乱の中で波乱に満ちた生涯を閉じました。
カール・ロベルト・シュタインメッツ
銀河英雄伝説本伝 『回廊の戦い(中編)~万華鏡』より
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ブリュンヒルト初代艦長にしてラインハルトに直言する
本伝ではリップシュタット戦役での登場ですが、時系列的にはラインハルトが大将昇進後に下賜されたブリュンヒルトの初代艦長として外伝に登場します。
艦隊指揮中のラインハルトがブリュンヒルトの運用に口を挟み、職責の別を説いてラインハルトに直言します。
その後、辺境区域で武勲を重ねますが、リプシッタット戦役後にラインハルトの元帥府へ招かれました。
同盟方面の防衛艦隊司令官としてハイネセンの動乱を収束
ラグナロック作戦時には、ヤンの詭計にはまり指揮艦艇の半数以上を失うものの脱出。救援にきたレンネンカンプ艦隊もヤンに撃破され、補給の遅滞も相まって、ラインハルトは自身を囮とする『バーミリオン会戦』の決断を下しました。
どちらかというと同盟の引き立て役的な役回りでしたが、ローエングラム王朝成立後に起きたハイネセン動乱においては、駐留艦隊を率いる防衛司令官として生来の剛直さを見せます。
ヤン一党の躍動によりレンネンカンプが拉致されると、単独でハイネセンに乗り込み事態の収束を図ろうとしますが、レンネンカンプの二の舞を危惧する幕僚から制止されます。
その時は、私もろとも惑星ハイネセンを吹き飛ばせ
銀河英雄伝説本伝 『すべての旗に背いて』より
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積年の混乱はそれで一掃される、と幕僚に言い残してハイネセンに急行し、動乱後の事態の収束をはかりました。
また、自身を破ったヤンの風貌を見て『俺はあいつに敗れたのか』と憮然とした想いを抱きましたが、直後に容姿で人を測る心を戒めるあたり、自制心を持った武人であることも伺えます。
また同僚のメックリンガーからも『勇敢さと有能さにおいて、苦情のつけようもない軍人』と、その能力と勇将ぶりを評価されています。
高等弁務官をシュタインメッツが任じられれば、その後の混乱は起きなかった、と言われる由縁ですね。
回廊の戦いでラインハルトの盾となり戦死
イゼルローン回廊を舞台とした『回廊の戦い』では、一進一退の攻防が続く中、本隊の後退に付け込んで突進したヤン艦隊の前に立ちふさがり、敵の集中砲火を浴びて戦死しました。
本営のラインハルトとロイエンタールはその死に衝撃を受け、戦役終結後は元帥に昇進し、ローエングラム王朝最大の名誉である『キルヒアイス武勲賞』が授与されました。
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